焼酎のラベルで見かける乙類という言葉。何となく本格焼酎のことだと分かっていても、甲類との違い、原料や麹が生む香りの差、最適な飲み方まで自信を持って説明できる方は多くありません。この記事では、最新情報を踏まえながら、乙類焼酎の基礎から実践的な選び方、家庭での美味しい作り方までを網羅的に解説します。
初めての方にも、飲み慣れた方にも役立つ具体的なコツを、表やリストで分かりやすくお届けします。
目次
乙類 焼酎の基礎知識と本格焼酎との関係
乙類焼酎とは、単式蒸留と呼ばれる一回蒸留を用いる焼酎の分類を指します。法律上の名称は単式蒸留しょうちゅうで、一般には本格焼酎として流通しています。原料由来の香りや旨味を残すのが最大の特徴で、芋、麦、米、そば、黒糖、泡盛など多彩な個性が楽しめます。
アルコール度数は20〜30度台が中心で、ストレートやロック、水割りやお湯割り、ソーダ割りなど飲み方の選択肢も幅広いお酒です。
本格焼酎の表示は、単式蒸留で造られ、香味付けを目的とした添加を行わないなどの基準を満たす商品に用いられます。ボトルの裏ラベルには原材料名、麹の種類、アルコール度数、蒸留方法の記載があり、選ぶ際の重要な手掛かりになります。
また、蒸留酒であるため糖質は実質的に含まれませんが、エネルギーはアルコール由来である点は覚えておきましょう。
法的名称とラベルの読み方
ラベル上で乙類焼酎は単式蒸留しょうちゅうと表記されます。合わせて本格焼酎の表示がある場合、単式蒸留で造られ、原料は穀類やいも類、黒糖などと麹が中心で、香味付けのためのエッセンスなどを添加しないことを意味します。
裏面では原材料の順番に注目すると配合のイメージが掴みやすく、麹の種類や蒸留方式の記載が風味の手がかりになります。
蒸留方式は常圧や減圧と書かれます。常圧はコクや香りが力強く、減圧は軽快で飲み口がやさしい傾向です。度数は25度が標準的ですが、20度や30度、泡盛では30度以上のボトルも一般的に見られます。
熟成に関わる表記として貯蔵年数や甕貯蔵、樽貯蔵などがあれば、味わいの厚みや香りの方向性を判断できます。
風味の特徴と度数の目安
乙類焼酎は原料由来の個性が前面に出ます。芋は香ばしさと甘い余韻、麦は香ばしくキレの良い喉越し、米はやさしく上品、そばは穀物の香りが素直に伸び、黒糖は黒蜜様の香りとキレの両立、泡盛は米麹由来の厚みと南国的な香気が特徴です。
度数は一般に20〜30度台で、割り方によって体感の強さは大きく変わります。
同じ度数でも飲み口は蒸留方式や熟成で変化します。常圧蒸留や甕熟成は厚みと余韻が伸び、減圧蒸留やステンレス貯蔵は軽快です。樽熟成はバニラやナッツのニュアンスが生まれますが、色度の基準があるためウイスキーのような濃い琥珀色にはなりにくい点も押さえておくと良いでしょう。
甲類との違いと分類の仕組み

焼酎は大きく甲類と乙類に分かれます。甲類は連続式蒸留で高純度に精製された無色透明のベーススピリッツで、クリアな味わいが特徴です。一方、乙類は単式蒸留で原料の香味を残すのが特徴です。
両者をブレンドした焼酎甲類乙類混和も流通しており、表示で見分けることが大切です。
比較のポイントを以下にまとめます。選び方の基準として活用してください。なお、どちらが優れているかではなく、目的に合うかどうかが鍵です。
カクテルやサワーのベースにはクリアな甲類、原料の個性を楽しむなら乙類という考え方が分かりやすい軸になります。
| 項目 | 甲類焼酎 | 乙類焼酎 |
|---|---|---|
| 蒸留方式 | 連続式蒸留 | 単式蒸留 |
| 風味 | 非常にクリアでニュートラル | 原料・麹由来の香味が豊か |
| 用途 | サワーや果実酒ベース | ストレート、割り、食中酒 |
| 表示の例 | 焼酎甲類 | 単式蒸留しょうちゅう、本格焼酎 |
連続式蒸留と単式蒸留の違い
連続式蒸留は塔型の蒸留機で不純物を取り除きながら何度も蒸留が進むため、香味は極めてクリーンになります。アルコールのピュアさが高い一方、原料の個性はほぼ感じられません。
単式蒸留は釜で一度だけ蒸留するため、揮発しにくい香味成分が一定量残り、原料や麹のニュアンスを保ちます。飲み口の表情が豊かで、飲み方での広がりも楽しめます。
単式蒸留でも減圧設備を用いることで軽やかなスタイルに仕上げる技術が発達しています。常圧は骨太、減圧は柔らかという大きな傾向を知っておくと、ラベルから味を想像する力が養われます。
混和焼酎の表示ルールと選び方
甲類と乙類をブレンドしたものは焼酎甲類乙類混和と表示されます。価格が手頃で飲みやすい反面、乙類由来の香りは穏やかになる傾向です。
ラベルのどこに分類が書かれているか、原料と蒸留方式、度数の3点をまず確認し、目的に合うかを判断すると失敗が減ります。
香り重視で食中に楽しむなら乙類の本格焼酎を、果汁やシロップで割るなら甲類や混和を選ぶ、と使い分けるのが合理的です。家庭の常備酒としては、香り系とクリア系を一本ずつ持つと幅広い料理やシーンに対応できます。
原料・麹・蒸留が生む個性
乙類焼酎の多彩さは原料と麹、そして蒸留方式の組み合わせから生まれます。原料では芋、麦、米、そば、黒糖、沖縄の泡盛など、それぞれが明確な個性を示します。麹は黒麹、白麹、黄麹が主に使われ、香りと酸度、発酵の勢いに違いを与えます。
さらに常圧と減圧の選択、貯蔵容器や期間が味の輪郭を形作ります。
選び方の近道は、原料をまず選び、次に麹と蒸留方式で好みの輪郭を調整することです。香りの強さ、甘みの出方、キレの方向性を言語化しておくと、酒販店やラベルの情報が活きてきます。初めは定番原料の中から対照的な2本を飲み比べるのがおすすめです。
原料別の味わい比較
芋は焼き芋やスイートポテトのような甘やかな香りとコクが魅力で、お湯割りでふくよかさが増します。麦は香ばしさとキレの両立で、ソーダ割りやロックでも輪郭が崩れません。米は柔らかで上品、繊細な和食に寄り添います。
そばは穀物の香りが素直に伸び、黒糖は黒蜜やカカオのニュアンスを伴いながら後味はドライです。
泡盛は米麹全麹仕込みが基本で、骨格のしっかりした厚みと熟成で増すナッツやトロピカルな香りが特徴です。樽や甕での貯蔵が加わると複雑さが増し、ストレートやロックでの充実感が際立ちます。料理との相性は幅広く、出汁や香味野菜、スパイスとよく馴染みます。
麹菌と酵母、仕込みと蒸留方式
黒麹はクエン酸生成力が高く、南方の温暖な環境でも雑菌に強い発酵を実現し、濃厚で力強い香味に。白麹は黒麹から派生し、香りはクリーンでまとまりの良さが特徴です。黄麹は華やかな吟醸様の香りを生みやすい一方、管理に繊細さが求められます。
酵母は香りや発酵温度に影響し、果実様の香りや穏やかな発酵など設計に活かされます。
蒸留は常圧なら蒸気温度が高く重厚な香りが残り、減圧は低温で軽快に仕上がります。貯蔵はステンレスでフレッシュ、甕で丸みと深み、樽でバニラやトースト香が加わります。色度基準に配慮しながら、香りと口当たりのバランスを設計するのが現在の主流です。
- 香りを楽しみたいなら芋や黒麹系
- 食中の万能さなら麦や米、白麹系
- 熟成感や余韻重視なら甕・樽貯蔵
飲み方と楽しみ方、料理との相性
乙類焼酎は割り方と温度で表情が劇的に変わります。ロックやストレートで芯の香りを、ソーダ割りで香りを立ち上げ、水割りやお湯割りで食事に寄り添う柔らかさを引き出せます。
料理との相性は、香りの強さと味の濃淡を合わせるのが基本です。香りが強い芋なら味付けのはっきりした料理、米や麦なら出汁系のやさしい味わいが好相性です。
温度管理も鍵です。お湯割りは40〜50度程度のお湯で香りが開き、ソーダ割りはよく冷やしたグラスと強炭酸でキレが際立ちます。水割りは氷と水の順番、攪拌の回数で口あたりが変わるため、作法を押さえると同じ銘柄でも別物のように感じられます。
水割り・お湯割り・ロック・ソーダ割りの作り方
水割りの基本は焼酎1に対して水1〜1.5。氷を入れ、焼酎を注いでから軽く混ぜ、水を静かに足して再度一回だけ混ぜます。角が取れて香りがまとまります。
お湯割りは先にお湯を入れてから焼酎を注ぐのがコツ。自然対流で香りが立ち、口当たりも柔らかくなります。
ロックは大きめの氷でゆっくり溶かし、香りの変化を楽しみます。ソーダ割りは氷、焼酎、ソーダの順に注ぎ、マドラーで一回転だけ。香りを逃さずキレを活かせます。
目安の比率は以下の通りです。
- 水割り 1:1〜1:1.5
- お湯割り 1:1 前後
- ソーダ割り 1:2
- ロック 適量で香りの変化を楽しむ
ペアリングのコツとシーン別提案
芋焼酎は香味の厚みがあるため、甘辛い照り焼き、味噌や醤油ベースの煮物、スパイスの効いた唐揚げと好相性。お湯割りにすると料理のコクと調和します。
麦や米は出汁系の料理、刺身、天ぷら、焼き魚など繊細な味わいに寄り添い、ソーダ割りにしても料理の邪魔をしません。
黒糖焼酎は甘辛のタレや豚肉料理、八角やシナモンなどの香辛料と良く合い、泡盛は沖縄料理はもちろん、チーズやナッツとも抜群です。
ホームパーティでは、香りの強弱が異なる2種を用意し、料理に合わせて割り方を変えると満足度が上がります。
- グラスは厚手でお湯割り、薄手で香り系に使い分け
- 水割りは軟水がおすすめ
- ソーダは強炭酸、氷は溶けにくい大きめを使用
まとめ
乙類焼酎は単式蒸留によって原料と麹の個性を活かすお酒です。甲類との一番の違いは香味の存在感で、選び方と飲み方次第で日常の食卓から特別な一杯まで幅広く活躍します。
ラベルに並ぶ原料、麹、蒸留、度数、貯蔵といった情報を読み解く力が付けば、好みの一本に確実に近づけます。
まずは原料の対照的な2種を選び、常圧と減圧、水割りとお湯割りなど、要素を一つずつ変えながら飲み比べるのがおすすめです。香りの強さ、甘み、キレ、余韻の長さといった観点でメモを取ると、次の選択に直結します。
最後に、適量を守り、体調に合わせて無理なく楽しむことが最良のペアリングであることも忘れずに。
初心者へのおすすめステップ
最初の2本は麦と芋、どちらも度数25度で、片方を常圧、もう片方を減圧にすると違いが明確です。飲み方は水割りとお湯割りを基本にし、比率は1:1から微調整。香りの広がりや後味の長さを指標に、自分の軸を作りましょう。
次に黒糖や米、泡盛に広げると、香りと食中の合わせ方の幅が一気に広がります。
ラベルの読み方に慣れたら、甕貯蔵や樽熟成、麹の違いにも挑戦します。香りが強い銘柄はお湯割り、軽快な減圧はソーダ割りなど、相性の良い作り方を合わせるのがポイントです。
常備するなら香り系とクリア系の2種を用意すると、料理と気分に合わせた最適解がいつでも選べます。
上級者の深掘りポイント
麹の違いで仕込み温度帯や発酵日数、酸度設計がどう変わるか、常圧と減圧のブレンド比率、貯蔵容器の違いによる口当たりの変化など、設計要素を意識して飲むと理解が深まります。
同じ蔵の別原料や同一原料の年違いを水平・垂直で比較するのも有効です。
料理では香りの重ね合わせに挑戦を。芋×燻製、黒糖×スパイス、麦×ハーブ、泡盛×チーズといった組み合わせは、少量で一気に世界が広がります。
保管は直射日光を避け、開封後は冷暗所で香りの変化を記録していくと、熟成と劣化の境界も肌で理解できるようになります。